― 全7回で学ぶ「視座を動かす思考法」―
この連載では、スケールサーフィン(チャンクアップ/チャンクダウン)について、全7回にわたって解説していきます。
目次
第1回:スケールサーフィンとは何か?
第2回:なぜスケールサーフィンが必要なのか? ― 話が噛み合わない理由
第3回:スケールの4段階 ― 視座の違いを整理する
第4回:実際に使ってみよう① ― 話が通じないときの対処法
第5回:実際に使ってみよう② ― コーチングでの使い方
第6回:実際に使ってみよう③ ― 問題解決と協力を生むスケールサーフィン
第7回:まとめ ― スケールサーフィンは技術ではなく在り方
第4回:実際に使ってみよう① ― 話が通じないときの対処法
では実際に、第2回で紹介した事例にスケールサーフィンを使ってみましょう。
第2回の事例をもう一度
設定は、次のような場面でした。
「病棟でMRSA患者が次々に発生し、水平伝播の可能性が高くなった状況での病棟カンファレンス」
話が噛み合わない会話例

師長
「MRSA患者が最近多く発生しています。医療者による水平伝播の可能性があるので、感染対策について皆さんと話し合いたいと思います。」

看護師A
「手指衛生ができていない人が多いんですよ。私が見てても、できてないなって思う人、何人もいます。」
「そうですか?でも、Aさんだって完璧じゃないですよね。」

看護師B

看護師A
「え?私がMRSA広げてるって言うんですか?」
「そんなこと言ってないですよ。手指衛生できてない人って言いながら、私を見ないでください。」

看護師B

看護師C
「そもそも、手指衛生が原因なんですか?他にも原因はあるんじゃないですか?」

師長
「手指衛生の徹底は必要だと思いますが、他にも考えられる要因はありますか?」

なぜ話が迷子になるのか
意外と、こうした場面は日常的に起きています。
この会話が建設的にならない理由は、それぞれが違う視座(チャンク)で話しているからです。
師長:病棟全体・感染対策(ビジョナリー/プランメーカー)
看護師A・B:個人の行動・感情(エキスパート)
看護師C:原因分析(プランメーカー/ディレクター)
誰かが悪いわけではありません。
ただ、会話のスケールが揃っていない。
その結果、
- 話題が飛ぶ
- 個人攻撃が始まる
- 議論が前に進まない
という状態になります。
スケールサーフィンができる司会者がいると?
では、スケールサーフィンを意識できる司会者がこの場にいたらどうなるでしょうか。
スケールサーフィンを使った会話例

師長
「MRSA患者が最近多く発生しています。感染対策について話し合いたいと思います。」
「ありがとうございます。ではまず、原因を挙げていきましょう。」

司会者

看護師A
「手指衛生ができていない人が多いんですよ。私が見てても、できてないなって思う人、何人もいます。」
「そうですか?でも、Aさんだって完璧じゃないですよね。」

看護師B

看護師A
「え?私がMRSA広げてるって言うんですか?」
「一度ストップしましょう。手指衛生が要因になっている可能性はありそうですね。ただ、誰ができている・できていないかではなく、病棟全体の問題として考えましょう。」
「手指衛生以外に、考えられる原因はありますか?」

司会者

看護師C
「忙しさで手指衛生が疎かになることはあると思います。それなら、誰がMRSAかわかるようにして、ゾーニングするのはどうでしょうか。」
「ゾーニングという案が出ましたね。師長さんからは、どんな要因が思い浮かびますか?」

司会者

師長
「病棟にMRSAを持ち込みたくないです。最初に誰がMRSAか把握したいですね。」
「では今、① 患者の特定、② ゾーニング、③ 手指衛生の強化、この3つが挙がりました。費用対効果を考えると、明日からできそうなのはどれでしょうか?」

司会者

ここで行われていること
これが、スケールサーフィンです。
最初のテーマは「MRSAの水平感染対策」。
しかし会話は、
- 個人の手指衛生
- 誰がやっていないか
という低いチャンク(チャンクダウン)に引きずられていきました。
そこで司会者は、
- 一度ストップをかける
- 個人攻撃を止める
- テーマに合う高さまでチャンクアップする
ということをしています。
チャンクを行き来することで、議論が前に進む
- 原因の特定(プランメーカー)
- 感染対策の方向性(ビジョナリー/プランメーカー)
- 費用対効果・実行可能性(プランメーカー/ディレクター)
このように話すスケールを意図的に行き来させることで、
- 話が整理され
- 参加者が迷子にならず
- 同じスケールで考えられる
ようになります。
これが、スケールサーフィンの実践的な価値です。
もちろん、現実はもっと難しい
正直に言えば、こんなにきれいには進みません。
- 自分の得意なチャンクから動かない人
- 細部に固執する人
- 理念に戻り続ける人
必ずいます。(笑)
それでも、スケールサーフィンという概念を知っている人が話し合いに一人いるかどうかで、進行は大きく変わります。
まとめ
話が通じないときにやることは、相手を説得することではありません。
まずは、
「今、どのチャンクで話しているのか?」
を見極めること。
そして、必要な高さに視座を戻すこと。
これだけで、会話の質は大きく変わります。
次回予告
次回は、コーチングの場面でスケールサーフィンをどう使うか。
相手が今どのチャンクにいるのかを見極め、質問で視座をどう動かしていくのかを具体的に扱っていきます。