人は本能的に、居心地の良い場所にとどまろうとします。この安全で安心な領域を、コンフォートゾーンと呼びます。
ここにいる限り、人は不安も恐怖も感じません。居心地がよく、安定しています。
しかし――このゾーンに成長はありません。

コンフォートゾーンに長くいると、人はやがて退屈を感じ始めます。
そして、心の奥から「もっとできるようになりたい」「変わりたい」という欲求が生まれます。
今この文章を読んでいるあなたの中にも、そうした感覚があるかもしれません。
ラーニングゾーンとパニックゾーン
コンフォートゾーンの外側には、ラーニングゾーン(不安)があります。さらにその外側には、パニックゾーン(恐怖)があります。
OJTや人材育成でよく言われる「少し背伸びした目標設定」とは、このラーニングゾーンで人を成長させようという意味です。
ラーニングゾーンでは、不安や心配がつきまといます。なぜならそこは、自分の知っている世界の外側だからです。しかしこのゾーンは、失敗しながら学べる安全な場所でもあります。
問題は、ここを越えてしまうことです。もしそこでの失敗が再起不能になるなら、それはすでにラーニングゾーンではなく、パニックゾーンです。

成長とは何か
私が考える成長とは、コンフォートゾーンを広げることです。
ラーニングゾーンに一歩踏み出し、不安と失敗を経験し、そこがやがて「慣れた場所」になる。
この繰り返しによって、人の世界は少しずつ広がっていきます。
成長とは、成功体験の積み重ねだけではありません。取り返しのつく失敗を、何度もくぐり抜けることです。
看護の現場にある、ラーニングゾーン
たとえば、経験の浅い看護師Aと、経験豊富な看護師Bがペアで働いている場面を考えてみましょう。
Aはこう不満を言います。

看護師A
「Bさんはあまり手伝ってくれない。私がいっぱいいっぱいなのに、横目で見ながら記録している。もっとフォローしてほしいの。」
一見すると、冷たい先輩に見えるかもしれません。しかし、経験豊富なBさんは違うことをしています。
Bさんは、Aさんの仕事を”見ていない”のではなく、極めて注意深く見ているのです。
- 何を優先しているか
- どこで迷っているか
- どの判断が遅れているか
- どこまで一人で回せるか
Aさんの行動と思考を観察しながら、「これは許容できる失敗か」「これは今止めないと危険か」を判断しています。
許容できる遅れやミスなら、あえて手を出さない。あとで振り返る材料にします。しかし、患者安全やチームに影響が出る兆しがあれば、すぐにフォローに入る。
これは放置ではなく、ラーニングゾーンの中で失敗をコントロールする行為です。

見守りと放置の決定的な違い
もちろん、Bさんの立場を利用してただ楽をしている「仕事をしない先輩」もいます。
そのため、Bさんは時々、圧倒的な仕事力を見せる必要があります。修羅場で流れを変え、乗り切るという実力を示さないと、説得力が生まれません。
それによってAさんは分かります。

「この人はいざという時にはやれる人だ。だから今は、サボっているのではなく、見守って育ててくれている。」
Aさん側がBさんを「見守ってくれているタイプ」か「仕事をしないタイプ」かを見極める基準もシンプルです。ちゃんと見てくれていたかどうか。
振り返りの中で、以下の内容を先輩が見抜いて問いかけてきたら、それは本物です!
「迷っていた瞬間」
「判断が揺れたところ」
「良かった工夫」

人を成長させるとは

人を成長させるとは、挑戦させることです。
そして、失敗しないように守ることではなく、失敗しても壊れないように設計することです。
コンフォートゾーンに閉じ込めるのでもなく、パニックゾーンに突き落とすのでもない。
ラーニングゾーンで、不安と失敗を経験させながら、世界を広げていく。
それが、コーチの仕事であり、指導者の仕事であり、人を育てるということなのです。