― 全7回で学ぶ「視座を動かす思考法」―
この連載では、スケールサーフィン(チャンクアップ/チャンクダウン)について、全7回にわたって解説していきます。
目次
第1回:スケールサーフィンとは何か?
第2回:なぜスケールサーフィンが必要なのか? ― 話が噛み合わない理由
第3回:スケールの4段階 ― 視座の違いを整理する
第4回:実際に使ってみよう① ― 話が通じないときの対処法
第5回:実際に使ってみよう② ― コーチングでの使い方
第6回:実際に使ってみよう③ ― 問題解決と協力を生むスケールサーフィン
第7回:まとめ ― スケールサーフィンは技術ではなく在り方
第5回:実際に使ってみよう② ― コーチングでの使い方
第5回まで来たので、「スケールサーフィン、なんとなくわかった気がする」そんな感覚が出てきている頃だと思います。
それで十分です。
今、完璧に理解する必要はありません。
「ちょっと使ってみようかな」
そう思ってもらえたら、この回の目的は達成です。
今回は、コーチングの場面での使い方。
最近よく行われている1on1ミーティングで使うイメージで読んでください。

ケース設定
3年目看護師が、師長に悩みを相談する場面
実際の会話
「師長さん、私、この職場やめようと思います。」

3年目看護師A

師長
「そうなんですね。差し支えなければ、なぜ辞めようと思ったのか教えてもらえますか?」
「聞いてくださいよ!私、毎日忙しく働いているのに、先輩たち全然手伝ってくれないんです!〇〇さんの仕事は手伝うのに、私の仕事は誰も手伝ってくれない。不公平すぎます。こんな職場、もう無理です!」

3年目看護師A

師長
「それはつらかったですね…。ちなみに、どうして手伝ってもらえないのか、先輩に聞いてみたことはありますか?」
「そんなの、聞けるわけないじゃないですか!」

3年目看護師A

師長
「そうですよね。言いづらいですよね。Aさんが頑張っていることは、先輩たちからも聞いています。一人でそんな思いをさせていたことに気づけなくて、ごめんなさい。ところで、Aさんは毎日残業していますか?残業申請が出ていなかったので、ちゃんと申請できているか心配になって。」
「私はほとんど定時で帰ってます。忙しくても、プライベートも大事にしたいので、意地でも定時で終わらせようとしてます。」

3年目看護師A

師長
「それは安心しました。ちなみに〇〇さんは、ほぼ毎日残業しています。Aさんは、自分に余裕がある日は〇〇さんの仕事を手伝っていますよね?」
「もちろんです。〇〇さんは仕事は丁寧ですけど、少し時間がかかるところがあるので…。」

3年目看護師A

師長
「助け合ってくれていて、私はとてもありがたいと思っています。だからこそ、Aさんが辞めたいと思うほどつらくなっているのが残念で…。Aさんは、『自分へのサポートが少ない』と感じているんですね。」
「……そう言われると、私でも〇〇さんの方を手伝いたくなっちゃうかも。でも、どうしても定時で帰りたい日もあるし、そういう時に手伝ってもらえないのは正直つらい…。それで不公平って思っちゃったんだと思います。」

3年目看護師A

師長
「なるほど。では、そういう日は私にこっそり教えてください。その日は必ず、Aさんが定時で帰れるように調整します。」
「わかりました。もう少し頑張ってみます。話を聞いてくれてありがとうございました。」

3年目看護師A
何が起きていたのか?
この会話の中で、師長はチャンクを上げたり、下げたりしながらAさんの視点を少しずつ動かしています。
そして同時に、Aさんの感情にもきちんと寄り添っています。
① 最初:エキスパート視点(細部・感情)
Aさんは「私だけ手伝ってもらえない」「不公平」「辞めたい」と、自分の体験・感情・出来事の細部にフォーカスしています。
ここでいきなり「組織としては〜」「みんな忙しくて〜」と話すと、火に油です。
② まず”同じ階層”で受け止める
「つらかったですね」「言いづらいですよね」
これは視点を合わせる = 同じ階層に降りるということです。いきなりチャンクを上げていません。
③ 少しずつチャンクを上げる
残業状況や助け合いの実態を確認することで、「不公平」という感情 → 職場全体の動きへと視点が広がっています。
④ さらに上へ、そして行動レベルに戻す
助け合いの仕組み、Aさんの価値観を整理した上で、「明日から何ができるか」という具体的な行動に戻します。
ここではもう「辞めたい」という言葉は消えています。
これが、コーチングでのスケールサーフィン
師長は「正しい答え」を教えていません。
代わりに、話を聞く高さを変え、見ている視点を行き来させながら、Aさん自身が「少し違う見え方」に気づくように関わっています。
説教もしていません。正論で押し潰してもいません。
考え方が変わったのは、Aさん自身です。
スケールサーフィンとは、相手を説得する技術でも、納得させる技術でもありません。
相手が「自分で一段、別の高さに立てるように支える技術」 ― それが、コーチングでのスケールサーフィンです。
ポイントまとめ
- いきなり視座を上げない
- まず同じ階層で受け止める
- タイミングを見て、少しずつ上げる
- 最後は「明日から何が変わるか」に戻す
これが、現場で使えるスケールサーフィンです。
次回予告
第6回は、実際に使ってみよう③ ― 問題解決と協力を生むスケールサーフィンです。
第5回では、「話が噛み合わない状態」から「少し見え方が変わるところ」までを扱いました。
第6回ではさらに一歩進み、
- 問題が完全に解決していなくても
- 正解が出ていなくても
- それでも人が前に動き出す
そんな「協力が生まれる高さ」を、スケールサーフィンでどう作るのかを扱います。