― 知識を実践力に変える、看護コーチングの学習設計 ―
「急変時の対応、何度も研修で学んだはずなのに、実際の場面では頭が真っ白になってしまう」
「コーチングの本を読んで理解したつもりなのに、後輩との面談では何も出てこない」
看護の現場で本当に役に立つ力は、「知っていること」ではなく、
とっさの場面で自然に出てくる実践力です。
医療現場で15年以上働くなかで、同じ研修を受けても、すぐに現場で使える人と、頭でわかっていても身体が動かない人がいることに気づきました。
その違いは何か?
それは、学び方の違いです。
読む。学ぶ。理解する。
それだけでは、現場では使えません。
なぜなら、僕らが実践するのに必要なのは、知識だけではなく、
知識の使い方という技術だからです。
今日は、知識を実践力に変えるための「看護コーチング的学習法」を紹介します。
なぜ「知っているのに使えない」のか
多くの人が、研修や本で学んだ知識を現場で使えない理由。
それは、知識の学び方が「理解」で止まっているからです。
脳は、理解した瞬間に「わかった」と判断します。
しかし、実際に身体が動くかどうかは別問題です。
看護の現場で必要なのは、
- とっさの判断
- 瞬時の対応
- 自然な言葉かけ
これらは、頭で理解するだけでは身につきません。
身体が覚え、反射的に出てくるレベルまで落とし込む必要があります。
そのために必要なのが、これから紹介する3ステップです。
実践力を身につける3ステップ
知識を実践力に変えるには、次の3つのステップを順番に進めていきます。
① 理解(Understand)
最初に必要なのは、概念を正しく理解することです。
ただし、ここで言う理解は「用語を覚えること」ではありません。
大切なのは、
- 何のために使うのか
- どんな変化を起こすのか
- どの場面で必要になるのか
という、意味の理解です。
例:「承認」というコーチングスキルを学ぶ場合
❌ 表面的な理解
「承認とは、相手の行動や存在を認めること」
⭕ 意味の理解
「承認とは、相手の中に『自分は価値がある』という感覚を生み出すことで、主体性と行動力を引き出すスキル。特に、後輩が自信を失っているときや、チームの士気が下がっているときに効果的」
知識として知っていても、意味がわかっていなければ、人は使えません。
逆に、意味が腹落ちしていれば、自然と「使いたくなる」「使う場面に気づく」ようになります。

📍POINT
・意味のない知識は使われない
・意味のわかる知識は、使うようになる
・使用頻度が少ない知識は、すぐに忘れられる
② 体験(Experience)
読んだ瞬間・学んだ瞬間に、僕らは「わかった気になる」ことがよくあります。
しかし、本当の理解は体験したときにしか起こりません。
体験とは、次の3つすべてを指します。
体験(シミュレーション)の3つの視点
1. 行為をやる(自分が実施する側)
例:コーチングスキルの「承認」を学んだら、実際に後輩に「今日の対応、的確だったね」と伝えてみる。
このとき、
- どんなタイミングで声をかけたか
- どんな言葉を選んだか
- 自分の身体はどう感じたか(緊張? リラックス?)
これらを観察します。
2. 行為を受ける(相手として受け取る側)
例:誰かから「承認」を受けたとき、自分の中でどんな感情が動いたかを観察する。
「嬉しい」「認められた」「もっと頑張ろうと思った」
この感覚を体験することで、承認の効果が腹落ちします。
3. 観察者(オブザーバー)として見る
例:先輩が後輩を承認している場面を観察する。
「どんなタイミングで?」「どんな言葉で?」「相手の反応は?」
第三者の視点から見ることで、技術の構造が見えてきます。
この3つを通して初めて、この学習でどう変化が起きるのか、どう動くのか、どう難しいのかが、体感として身体に入ってきます。

📍POINT
身体で体験したこと(姿勢、呼吸、表情の変化)、視点の移動(相手の立場、観察者の視点)、そして使った言葉と受け取った言葉。
この3つの体験が重なったとき、技術は初めて「使えるもの」になります。
③ 実践(Action & Feedback)
体験しただけでは、まだ不十分です。
本当に力になるのは、実際の関係性の中で使ったときです。
- 職場
- 家庭
- 同僚
- 後輩
- チームメンバー
こうした日常の中で試してみることで、技術は少しずつ血肉化していきます。
重要なのは「完璧さ」ではない
0点 → 30点 → 60点 → 100点
という成長で十分です。
最初から100点を狙わなくていい。
まず30点を出す勇気こそが、学習において最も大切です。
実践の例:「承認」を使ってみる
初回(30点)
「今日の対応、良かったよ」
→ タイミングは良かったが、具体性に欠ける
2回目(60点)
「さっきの患者さんへの説明、わかりやすくて丁寧だったね」
→ 具体的になったが、まだ少し硬い
3回目(80点)
「さっき、○○さんが不安そうにしてたときの声かけ、すごく良かった。あの一言で表情が変わったの、見てたよ」
→ 具体的で、観察の深さも伝わる
このように、少しずつ精度を上げていけばいいのです。

📍POINT
実践の回数が、実践力の深さを決めます。
1回の100点よりも、10回の30点の方が、はるかに力になります。
実践で成果を出すための4つの原則
1️⃣ 学んだことは、その日に使うこと
記憶はすぐに忘れますが、体験は残ります。
例えば、「承認」について学んだら、その日のうちに誰か一人に承認の言葉をかけてみる。
たったそれだけで、「ああ、こうやって使うのか」という体感が生まれ、翌日からも自然に使えるようになります。
実践ワーク:
今日学んだことを、その日のうちに1回だけ使ってみる。完璧である必要はありません。
2️⃣ アウトプットがインプットを完成させる
理解しただけでは使えません。
話す・使うことで、初めて定着します。
「誰かに説明する」
「実際に使ってみる」
「振り返りを言語化する」
こうしたアウトプットを通して、あいまいだった理解が明確になり、知識は初めて自分のものになります。
実践ワーク:
学んだ内容を、誰かに3分で説明してみる。説明できないところが、まだ理解できていない部分です。
3️⃣ できていない自分を否定しない
成長は一直線ではありません。
ある日、突然つながる瞬間が来ます。
「まだできない」は「まだ練習中」と同じ意味です。
うまくいかなかった経験も、すべて次の実践のための貴重なデータです。
できていない自分を責めるのではなく、できるようになるプロセスを楽しんでください。
実践ワーク:
うまくいかなかったとき、「なぜダメだったのか」ではなく、「次はどう変えてみようか」を考える。
4️⃣ 感じたことを言語化する
「なぜそう感じたのか」を言葉にすると、技術は再現可能なスキルになります。
- うまくいったときは、何が良かったのか
- うまくいかなかったときは、何が足りなかったのか
- 相手はどんな反応を示したのか
これを振り返り、言葉にすることで、次の実践がより確実になります。
実践ワーク:
実践後、3行でいいので振り返りをメモする。この習慣が、あなたの成長を加速させます。
振り返りの3行フォーマット:
- 何をした
- どうだった(相手の反応、自分の感覚)
- 次はどうする
日常すべてが学びの場になる
「自分の人生と現場を使って学ぶ」
これが、看護コーチング的学習法の本質です。
成功も、失敗も、うまくいった関わりも、うまくいかなかった違和感も、すべてが教材になります。
例えば
後輩への指導がうまくいかなかった
→ なぜうまくいかなかったのかを振り返る教材
患者さんとの会話で心が通じた
→ 何が良かったのかを分析する教材
チームでの意見対立
→ 自分のコミュニケーションパターンを知る教材
こうした日常の出来事を、「ただ流す」のではなく、「学びに変える」視点を持つことで、
あなたの現場は、世界一の学習の場に変わります。
そして、学ぶ人ほど、現場での見え方が変わっていきます。
同じ出来事を経験しても、そこから得られる学びの量が、まったく違うものになるからです。
学習サイクルを回し続ける
理解 → 体験 → 実践 → フィードバック → 再挑戦
このサイクルを、ゆっくりでいいから回し続けること。
それが、あなたの成長を確実なものにします。
大切なのは、サイクルの「速さ」ではなく、「継続」です。
- 1日1回、小さな実践をする
- 週に1回、振り返りをする
たったそれだけで、半年後のあなたは、今とはまったく違う景色を見ています。
焦る必要はありません。
ただ、止めないこと。
それだけが、唯一のルールです。
まとめ ― 明日から始める一歩
知識を頭に入れることがゴールではありません。
その知識を使って、目の前の人に、チームに、そして自分自身に、どんな変化を起こせるか。
それこそが、本当の学びです。
明日からできる3つのアクション
1. 今日学んだことを、今日中に1回使う
完璧でなくていい。30点で十分です。
2. 実践後、3行だけ振り返りをメモする
「何をした」「どうだった」「次はどうする」
3. 週に1回、5分間の振り返り時間を作る
小さな実践の積み重ねが、確実な成長を生みます。
変化を現場で起こすための学習設計。
それが、看護コーチング的学習法です。
あなたの学びが、あなたの現場を、そして目の前の人を変えていく。
その一歩を、今日から始めましょう。
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