― コーチングの視点から、支援の広告を読み解く ―
SNSを見ていると、魅力的な謳い文句の広告が目に入る。
「3回のセッションで人生が変わる」
「短期間で成果が出るメソッド」
「米国発・最先端のコーチング技法」
一見すると、飛びつきたくなる言葉が並んでいる。
だからこそ、今日はコーチングの視点から、
コーチはこうした広告をどう見ているのか、
一緒に体験してほしい。
対人支援やコーチングに関わる人であれば、
「もっと自信を持って関わりたい」
「クライアントに喜ばれるコーチングがしたい」
そう感じたことが一度もない人はいないだろう。
特に経験の浅い時期や、手応えを感じにくい時期ほど、
- 短期間
- 少ない回数
- すぐに成果が見える
といった言葉は、合理的で魅力的に映る。
それ自体は、ごく自然な感覚だ。
短期間で変化が起きること自体は珍しくない
コーチングの初期段階で、
- 表情が明るくなる
- 気持ちが軽くなったと言われる
- 感謝の言葉を受け取る
こうした反応が起きることは、実際にある。
人は、話を聴いてもらえた、理解されたと感じるだけで、
一時的に安心し、気分が上向くことがある。
これは、コーチングの大切な第一歩だ。
問題は、その反応を「ゴール」と定義してしまうことだ。
「変化が起きたように見える」と「定着する」は別の話
臨床や対人支援、コーチングの現場では、
次の二つは明確に区別される。
【一時的な変化】
- 感情や気分の改善
- 「楽になった」という実感
- コーチへの好意的な反応
→ 比較的短期間で起こりやすい
【定着する変化】
- 行動パターンの変化
- 判断基準の変化
- 自分で選び、引き受ける力
→ 時間を要する
前者は、コーチングの「入り口」だ。
後者は、コーチングの「目的地」だ。
もし「短期間で成果が出るかどうか」だけを評価軸にすると、
本来育てるべき力が、視界から消えてしまう。
具体例で見てみよう
【ケース:仕事の人間関係に悩むAさん】
Aさんは、職場の上司との関係に悩んでいた。
短期的なコーチングのアプローチ:
- 上司への対処法を具体的にアドバイス
- 「こう言えばいい」という言葉を提示
- 気持ちを受け止め、共感する
→ Aさんは「楽になった」「わかってもらえた」と感謝する
3回のセッション後:
- その場では満足度が高い
- でも、次に似た状況に出会った時、また同じように悩む
- 「またコーチに教えてもらわなきゃ」と、コーチに依存する
長期的なコーチングのアプローチ:
- 「なぜ、上司との関係で悩むのか?」を一緒に考える
- Aさん自身の価値観や、反応のパターンを見つける
- 「次に同じような場面が来たら、どうしたい?」と問いかける
→ 初期は「答えがもらえない」と感じることもある
1年後:
- Aさんは、自分で考え、選べるようになっている
- 似た状況でも、自分で対処できる
- コーチがいなくても、立っていられる
この違いが、「一時的な変化」と「定着する変化」の差だ。
「感謝されるコーチング」が生みやすい構造的な問題
コーチングが「感謝されること」や
「好意的な反応を得ること」は悪いことではない。至って普通のことである。
しかし、勘違いしないでほしいのは、
「感謝されること」を中心に設計されると、無意識のうちに次のような傾向が生じやすくなる。
【構造的に起きやすいこと】
傾向①:不快な問いを避ける
- クライアントが考え込んでしまう質問を避ける
- 「答え」を先に渡してしまう
- 葛藤を早く解消しようとする
傾向②:境界が曖昧になる
- コーチが「必要とされること」に依存する
- クライアントが「教えてもらうこと」に依存する
- 関係性が対等ではなくなる
傾向③:自立の機会が減る
- クライアント自身が考え、選び、引き受ける機会が減る
- 「自分で決める力」が育たない
短期的には、関係性は良好に見える。
コーチ側の手応えも大きい。
しかし長期的に見ると、
クライアントは「一人で立つ力」を失っていく。
これは個々のコーチの善悪の問題ではない。
コーチング設計の構造の問題である。
「蝶と蛹の話」になりかねない
ここで、有名な寓話を紹介したい。
【蝶と蛹の話】
ある人が、蛹から出ようともがいている蝶を見つけた。
「かわいそうに、助けてあげよう」
そう思って、蛹を少し切り開いてあげた。
蝶は簡単に出てくることができた。
でも、その蝶は飛べなかった。
なぜなら、蛹から出る時のもがきこそが、
羽を強くし、飛ぶ力を育てる過程だったからだ。
コーチングも、同じだ。
「早く楽にしてあげたい」という優しさが、
時として、クライアントが自分で乗り越える機会を奪ってしまう。
短期的な感謝は得られる。
でも、長期的には、飛べない蝶を生み出してしまう。
「米国発」「最先端」という言葉は、何を基準にしているのか
コーチングの分野では、
「海外発」「最先端」といった表現が
強い説得力を持つことがある。
しかし、本来確認すべきなのは、
- 何をもって最先端と呼んでいるのか
- 研究なのか、実践なのか、単に国内で新しいだけなのか
- どのような対象に、どのような条件下で有効とされているのか
という点だ。
「新しい」という言葉は、そのまま「適切」や「有効」を意味するわけではない。
「使われている」と「一般化できる」は同義ではない
特定の環境で用いられているコーチング手法が、
別の環境でも同様に機能するとは限らない。
特に、軍事・災害・危機介入などの現場では、
- 強いストレス反応を前提とする
- 明確な役割や指揮系統が存在する
- 短期介入・即時対応が目的である
といった前提条件がある。
こうした条件下で設計されたコーチングは、特定の目的に最適化されている。
それを、
- 日常的な不安
- 人間関係の悩み
- 生き方や価値観の揺らぎ
といった日常のテーマに適用する場合、
慎重な検討が必要になる。
もっとわかりやすく言うと、
東大生に向けて教えている内容を、
「最先端だから」という理由で小学生に教えても、
全く意味がないということだ。
実績のある場所と、適用される文脈は一致しない
コーチングにおいて重要なのは、
「どこで使われているか」ではなく、
「誰に、何のために、どの関係性で用いられるか」という点だ。
実績があるという事実は、
そのまま一般的な適用可能性を保証するものではない。
コーチにとって本当に問われるもの
コーチが評価されるべきなのは、
- 有能に見えるか
- 感謝され続けるか
ではない。
本当に問われるのは、
「コーチングが終わったあと、クライアントが一人で立てるか」
その一点である。
そこに至る過程では、
- 一時的に感謝されない関わり
- 手応えを感じにくい時間
- 「答えをくれない」と言われること
も含まれる。
それを引き受けられるかどうかが、
コーチとしての力量を分ける。
コーチが自問すべき3つの問い
もしあなたがコーチなら、
定期的に、この3つを自分に問いかけてほしい。
【問い①:今、私は「感謝されること」を目的にしていないか?】
クライアントの満足を優先しすぎて、
不快な問いを避けていないか?
【問い②:短期的な変化を、成果だと勘違いしていないか?】
一時的な気分の改善を、
「もう大丈夫」だと判断していないか?
【問い③:コーチングが終わった後、この人は一人で立てるか?】
私がいなくなった時、
この人は自分で考え、選び、引き受けられるか?
この3つの問いは、
コーチとしての軸を保つための羅針盤になる。
おわりに
「短期間で成果が出るコーチング」が魅力的に見える理由は理解できる。
誰もが安心したいし、報われたい。
ただ、その魅力の裏側で、
- 何が育ち
- 何が育たないのか
一度立ち止まって考える余地はある。
答えを急ぐ必要はない。
判断するのは、読む人自身でいい。
コーチングとは、
短期的な手応えよりも、
長期的な自立に耐えうるかどうかを問う営みなのだから。
【あなたへの問い】
もしあなたがコーチなら、
今日、一度立ち止まって考えてみてください。
「私のコーチングは、クライアントの自立を育てているだろうか?」
この問いに、正直に向き合うことが、
あなたを本物のコーチにしていきます。

こんなことを考えながらSNSを見ている自分に、我ながら苦笑してしまう。
でも、こうした視点を持つことが、コーチとしての誠実さを保つために、必要なのだと思う。
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