本音が言えない時の指導は、全部がズレる

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― アイスバーグ理論とラポールで考える人の育て方 ―

以前の記事で、
物事の習得には Body・Mind・Spirits という三つの領域がある、という話を書いた。

  • Body:技術・知識・技能
  • Mind:考え方・準備・感情
  • Spirits:価値観・信念・在り方

前回の記事:「コーチングテクニックの前に ― 物事の習得に必要なものは何か ―」
今日は、その考え方を「教える側」の視点から、もう一度深めてみたい。
あなたが誰かに何かを教える時、実は技術だけでなく、もっと大きなものを渡している。
その正体を、今日は明らかにしたい。


成長を「アイスバーグ理論」で理解する

成長は、よくアイスバーグ(氷山)に例えられる。
これは、組織心理学や教育心理学の分野で使われる考え方で、人の行動や成果を「目に見える部分」と「目に見えない部分」に分けて捉えるモデルだ。

氷山は、水面の上に見えている部分はほんの一部。
本体は、水面下に大きく広がっている。
人の成長も、まったく同じだ。

水面の上(見える成長)

  • 成果
  • 成績
  • 結果
  • 行動
  • 発言

水面の下(見えない成長)

  • 思考のクセ
  • 判断基準
  • 感情の扱い方
  • 価値観
  • 信念
  • マインドセット

多くの人が見ているのは、水面の上だけだ
そして、多くの指導は、水面の上だけを変えようとする。


教育や指導がズレる理由

多くの指導は、こうなる。

「結果が出ていない」
     ↓
「やり方を変えよう」
     ↓
「もっと練習しよう」

つまり、水面の上(行動・技術)だけをいじる。
でも、本当の原因は、水面下にあることが多い

  • なぜ、その行動を選んだのか
  • なぜ、同じミスを繰り返すのか
  • なぜ、ここで止まってしまうのか

ここを見ずに、やり方だけを直しても、根本は変わらない。
具体例で見てみよう。


【具体例①:学校の先生と、質問しない生徒】

ある先生が、こう悩んでいた。
「授業で『質問はありますか?』と聞いても、誰も手を挙げない。わからないなら聞いてほしいのに。」

先生は、こう考えた。
「生徒たちは、質問の仕方を知らないんだ」
そこで、「質問の仕方」を教えた。

  • 「〇〇がわかりません」と言おう
  • 「もう一度説明してください」と伝えよう

でも、質問は増えなかった。
なぜか?

水面下に、こんなマインドセットがあったからだ。

  • 「質問したら、バカだと思われる」
  • 「わからないのは、自分だけかもしれない」
  • 「先生に迷惑をかけたくない」

これは、技術の問題ではなく、マインドセットの問題だった。
先生が本当に変えるべきだったのは、
「質問の仕方」ではなく、
「質問しても安全だ」という空気だった。


【具体例②:スポーツの指導者と、消極的な選手】

少年野球のチームで、こんな選手がいた。
練習では良いプレーをするのに、試合になると途端に消極的になる。

コーチは言った。
「もっと積極的にいけ!」
「思い切ってやれ!」

でも、選手は変わらなかった。
なぜか?

水面下に、こんなマインドセットがあったからだ。

  • 「ミスしたら、怒られる」
  • 「失敗したら、試合に出られなくなる」
  • 「チームに迷惑をかけたくない」

これは、勇気の問題ではなく、マインドセットの問題だった。
コーチが本当に変えるべきだったのは、
「積極性」ではなく、
「失敗しても大丈夫だ」という安心感だった。


【具体例③:職場の上司と、提案しない部下】

ある上司が、こう悩んでいた。
「部下に『もっと提案してほしい』と伝えているのに、誰も提案してこない。」

上司は、こう考えた。
「部下たちは、提案の仕方を知らないんだ」
そこで、「提案書の書き方」を教えた。

でも、提案は増えなかった。
なぜか?

水面下に、こんなマインドセットがあったからだ。

  • 「提案しても、どうせ却下される」
  • 「前に提案した人が、怒られていた」
  • 「余計なことを言わない方が安全だ」

これは、スキルの問題ではなく、マインドセットの問題だった。
上司が本当に変えるべきだったのは、
「提案の仕方」ではなく、
**「提案を歓迎する文化」**だった。


アイスバーグと Body / Mind / Spirits の対応

アイスバーグを
Body / Mind / Spirits に当てはめると、こうなる。

Screenshot

水面

  • Body(技術・知識・技能)

水面中

  • Mind(考え方・準備・感情・集中)

さらに深いところ

  • Spirits(価値観・信念・マインドセット)

多くの人は、Bodyだけで成長しようとする。
多くの指導者は、Bodyだけを教えようとする。
でも、
成長のエンジンは、MindとSpiritsにある


マインドセットは、成長の「土台」

マインドセットとは何か。
簡単に言えば、「物事をどう捉えるか」だ。

  • 失敗=ダメなこと
  • 失敗=学習の材料

どちらの捉え方で生きているかで、
同じ経験でも、成長度合いは変わってくる。

これは、
努力の問題ではない。
才能の問題でもない。
マインドセットの問題だ。


教える側のマインドセットが、そのまま相手に移る

ここからが、今日一番伝えたいことだ。
人は、教えられた内容より、教える人のマインドセットを引き受ける。
これは、言葉で教えなくても、無意識に伝わる。

  • ミスを許さない指導者
     →「失敗は避けるもの」というマインドセットが植え付けられる
  • 正解を急ぐ指導者
     →「考えるより当てることが大事」というマインドセットが育つ
  • 間違いを認める指導者
     →「人は修正しながら成長する」というマインドセットが残る

具体例で見てみよう。

【パターンA:ミスを責める指導者】

指導者:「なんでそんなミスするんだ! 何回言ったらわかるんだ!」

生徒が学ぶこと:

  • ミスは恥ずかしいこと
  • ミスしたら怒られる
  • だから、ミスしそうなことは避けよう

→ 結果:チャレンジしなくなる

【パターンB:間違いを一緒に考える指導者】

指導者:「さっきのミス、何が原因だと思う? 一緒に考えてみよう。」

生徒が学ぶこと:

  • ミスは学びのチャンス
  • ミスしても、一緒に考えてくれる
  • だから、次はこう改善しよう

→ 結果:チャレンジし続ける

同じ「ミス」という出来事でも、指導者のマインドセット次第で、生徒の成長は真逆になる。


なぜ「教えているのに伝わらない」のか

教える側がよく感じる違和感がある。

  • 何度説明しても伝わらない
  • 同じところでつまずく
  • 自分で考えようとしない

このとき問題なのは、
技術不足ではないことが多い。
水面下のマインドセットの何かが成長を止めている。

  • 「どうせ自分はできない」
  • 「失敗したら評価が下がる」
  • 「正解を言わなきゃいけない」

これらはすべて、Spiritsの問題だ。
そして、そのマインドセットは、
あなたが(無意識に)渡したものかもしれない。


水面下が見えない本当の理由

ここで、多くの指導者が見落としている決定的な事実がある。
相手の水面下(本当のマインドセット)は、信頼関係がなければ見えない。

いくら「本音を言って」と言っても、
いくら「何でも聞いて」と伝えても、
相手が**「ここで本当のことを言ったら、怒られる」**
「批判される」
「見下される」
そう思っている限り、水面下は決して姿を現さない。


信頼関係(ラポール)がないと、アイスバーグは大きくならない

心理学やコーチングの世界では、
この信頼関係のことをラポールと呼ぶ。

ラポールとは、
「この人の前では、ありのままの自分でいても大丈夫だ」
という安心感のことだ。

ラポールが形成されていない状態で、
どれだけ優れた技術を教えても、
どれだけ素晴らしいアドバイスをしても、
相手のアイスバーグは大きくならない。

なぜなら、
相手は本当の自分を隠したまま、
「正解っぽい反応」をしているだけだからだ。


ラポールがない時、こんなことが起きる

信頼関係がない状態では、こんな現象が起きる。

【現象①:表面的な返答しか返ってこない】

指導者:「今日のミス、何が原因だと思う?」
生徒:「集中力が足りませんでした。」
→ これは本音ではない。「こう答えれば怒られない」という防衛反応だ。

【現象②:同じミスを繰り返す】

指導者:「何度言ったらわかるんだ!」
生徒:「すみません、次は気をつけます。」
→ 本当は「なぜミスしたのか、自分でもわからない」と思っているが、それを言えない。

【現象③:質問が出てこない】

指導者:「わからないことがあったら、何でも聞いて。」
生徒:「(沈黙)」
→ 本当は質問したいが、「こんなことを聞いたらバカにされるかも」と思って言えない。


ラポールがある時、こんなことが起きる

一方、信頼関係がある状態では、こんな変化が起きる。

【変化①:本音が出てくる】

指導者:「今日のミス、何が原因だと思う?」
生徒:「正直、怖かったんです。失敗したらまた怒られると思って。」
→ 本当の気持ちが出てくる。これが、水面下が見えた瞬間だ。

【変化②:自分で考え始める】

指導者:「どうしたらいいと思う?」
生徒:「もう少しリラックスして、失敗してもいいやって思えたら、多分できると思います。」
→ 自分の課題を、自分で言語化できるようになる。

【変化③:質問が増える】

生徒:「さっきの説明、もう一回教えてもらえますか?」
→ 「聞いても大丈夫だ」という安心感があるから、質問できる。


ラポール形成は、すべての前提

だから、
ラポール(信頼関係)の形成は、すべての指導の前提なのだ

ラポールなしに、

  • 相手の本当のマインドセットは見えない
  • 相手の本当の課題はわからない
  • 相手のアイスバーグは大きくならない

どれだけ優れた技術を持っていても、
どれだけ豊富な知識を持っていても、
ラポールがなければ、それは相手に届かない


ラポールを形成するために、今日からできること

では、どうすればラポールを形成できるのか。

【実践①:まず、相手の話を最後まで聞く

途中で遮らない。
否定しない。
「でも」「だけど」を言わない。
ただ、最後まで聞く。
それだけで、「この人は、私の話を聞いてくれる」という安心感が生まれる。

【実践②:相手の感情を認める

「それは辛かったね」
「不安だったんだね」
「そう感じるのは、自然なことだよ」
感情を否定せず、まず受け止める。
これが、「ここでは本当の気持ちを言っても大丈夫だ」という安心感を作る。

【実践③:自分の失敗や弱さを見せる

「実は先生も、昔は同じミスをしてたんだ」
「私も、最初は全然できなかったよ」
完璧な姿を見せるのではなく、
自分の弱さや失敗を見せることで、
「この人も完璧じゃないんだ」という親近感が生まれる。

【実践④:批判しないジャッジしない

相手が本音を言った時、
「それは甘えだ」
「そんなこと言ってちゃダメだ」
と否定してしまったら、その瞬間、ラポールは壊れる。

たとえ自分と意見が違っても、
まず「そう思ったんだね」と受け止める。
その姿勢が、ラポールを守る。

【実践⑤:一貫した態度を保つ

機嫌によって態度を変えない。
昨日と今日で、言うことを変えない。
一貫性のある態度が、
「この人は、いつでも同じように接してくれる」という安心感を作る。


人に教える前に、自分に問い直したいこと

だから、
人に何かを教える立場にあるなら、
技術やテクニックの前に、一度だけ立ち止まってほしい。

【自分への4つの問い】

問い①:今、自分は水面の上だけを見ていないか?

相手の行動や結果だけを見て、
水面下のマインドセットに目を向けているだろうか。

問い②:相手との間に、ラポール(信頼関係)はあるか?

相手は、あなたの前で本音を言える状態だろうか。
「何を言っても怒られない」という安心感を、あなたは作れているだろうか。

問い③:自分はどんなマインドセットを持っているか?

  • 失敗をどう捉えているか
  • 質問をどう受け止めているか
  • 成長をどう定義しているか

問い④:自分のマインドセットを、相手に押し付けていないか?

自分が「正しい」と思っているマインドセットが、
相手にとっても正しいとは限らない。


最後に

成長は、
目に見えるところから始まらない。

水面下で、
考え方が変わり、
マインドセットが変わり、
氷山が大きくなった時に、
ようやく水面の上に現れる

でもその前に、
まず、信頼関係(ラポール)がなければ、水面下は見えない。

人を育てるとは、
結果を急がせることではない。
まず、ラポールを形成し、
その人のアイスバーグのどの層に触れているのかを自覚すること。

それができたとき、
コーチングは「技術」ではなく、
人の成長に寄り添う行為になる。


【あなたへの問い】

今日、あなたが関わる誰か一人に対して、
「技術を教える」前に、
「ラポールを形成する」
ことを意識してみてください。

  • 相手の話を、最後まで聞く
  • 相手の感情を、否定せず受け止める
  • 「ここでは本音を言っても大丈夫だ」という空気を作る

その姿勢を持つだけで、
あなたの「教える」は、確実に変わります。


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なかや たかと

なかや たかと

経歴
2007年杏林大学医学部付属病院看護専門学校卒業
2007年4月〜2011年3月杏林大学医学付属病院(救急、整形外科、緩和ケア)
2011年4月〜2015年3月札幌医科大学附属病院(救急)
2015年4月〜信州大学医学部附属病院(救急)

主な資格
正看護師、救急救命士、危険物取扱者乙4
(財)日本ライフセラピスト財団 認定コーチング、カウンセリング、恋愛アドバイザー、目標設定シニアアドバイザー
県DMAT、特定行為研修(術中麻酔管理パッケージ)

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