コーチ
僕は常々コーチは、コーチングのテクニックに頼らないで欲しいと言っています。しかし、実際にはテクニックを最低限使えてこそ効果的にコーチングができるものだとも思っています。そのため、これから何回かに分けて、実際にコーチングする際に使用するテクニック(技術)をお伝えしていきます。
コーチングで使用するテクニックは、小さく分けてしまうと沢山あるのですが、大まかに分類すると3つになります。
1.聴くテクニック
2.承認する(受け入れる)テクニック
3.質問するテクニック
1.聴くテクニックというのは、いわゆる傾聴と呼ばれているものです。海外ではアクティブリスニングと呼んでいる方もいます。そもそも定義が曖昧なのですが、この聴くテクニックの中に、ゼロポジション、ペーシング、ミラーリング、相槌、オウム返しなどが含まれます。
2.承認するテクニックというのは、相手の行動などを承認して行くというテクニックです。僕のイメージは、受け入れるとか受け止めるというような考え方です。海外でよくみる親が子供をハグするような状態が一番近いと思っています。時々、褒めるという風に捉えている方がいますが、少し意味合いが違いますので、注意してください。承認するテクニックには、I(you、We)メッセージ、要望する、承認、フィードバックなどが含まれます。
3.質問するテクニックというのは、文字通り「質問する」ということです。そして、これはコーチ最大の武器です。コーチは質問を使って、クライアントの視点を変え、視座を変え、視野を変えていきます。質問するテクニックには、オープンクエスチョン、クローズクエスチョン、未来型質問、過去型質問、肯定型質問などが含まれます。
では、今回は聴くテクニックについてお話ししていきます。
コーチングのテクニックでまずどんな本にも出てくるのが、この『傾聴』です。看護の世界では、傾聴はよく聞くワードですよね。でも、傾聴ってどういうことをできていたら傾聴しているといえるのでしょうか?っと質問した時に答えられる人はかなり少ないと思います。
実はこの傾聴という言葉は、使い勝手がいいので、どこでも使われております。広辞苑で調べても、「傾聴とは、耳を傾けてきくこと。熱心に聞くこと。」とざっくり書いてあって、耳を傾ける?熱心に聞く?っていわゆる精神論?って思わすような書き方になっています。
そのため、今回は『傾聴』という言葉に含まれる要素を、テクニックに注目しながら分解していきます。
ゼロポジション:相手の意見を肯定も否定もしない、自分の価値観を入れずに聴く(受け入れる)ということです。
これが意外と難しいです。どうしても、自分の価値観や判断をしながら聞いてしまいます。「あっそうじゃないのにな。」「そこ間違って捉えちゃってるな。」など自分の価値観などに照らし合わせながら聞いてしまう癖が多くの人にはあるはずです。ですが、なぜこれが必要かというと、クライアントの世界観を理解するためです。クライアントから、この現状がどう見えており、どう捉えているのかを、語ってもらい、コーチはそれを知る必要があるためです。
例えば、クライアントが横断歩道の前で立ち止まっています。コーチからは信号が青にみえています。コーチは青なんだからさっさと進めばいいのにって思いながら話を聞いています。もしくは、我慢できずに「早く進んで」って言っちゃう人もいるかもしれません。でも、それではクライアントが進まない理由がなぜなのか、それでは分かりません。
クライアントからは信号が赤にみえているかもしれません。または青にみえているけど、青が進めであるということを知らない世界で育っているのかもしれません。またはもう少し先から猛スピードで直進してくる車が見えているかもしれません。そもそも、信号が進むとかとまれを合図しているということをわかっていないのかもしれない。
コーチ
ゼロポジションというのは、決して悟りを開いたように無で聴くのではなく、どんな世界が見えているのか、またその見えた世界をどのように解釈しているのかを、好奇心を持ちながら聞いていくというスタイルです。
ペーシング:同調、同期するという技術です。
ミラーリング:鏡のように映し出すという技術です。
実際には、どっちがどっちか区別つけようがないので、同じ括りで説明していきます。
クライアントが悲しい顔をして話しているときに、同じく悲しい顔で聞く。楽しく話している時に、笑顔で聴くというのがペーシングです。顔を前後に振りながら頷くように話をするクライアントであったら、同じ感じで同じように顔を前後に振って頷くように聴く、しかもペーシングはこの頷きのタイミングを合わせていくことがポイントです。そのため、他の人から見たらミラーリングをしているように映ります。
そして、ミラーリングは文字通り真似ることです。例えば、クライアントが頭を掻いたら、こちらも頭を掻く(実際には触る程度ですが)、鼻を触ったらこちらも鼻を触る、涙を拭いたらこちらも涙を拭くような仕草をする、というように動作をまねます。露骨に再現していると相手に不信感を招きますので、自然に真似るというのポイントです。
このミラーリングやペーシングがなぜ必要かというと、これはクライアントからみるとちゃんと話を聞いていてくれる、共感してくれている、傾聴してくれていると一体感、親密感を感じるからです。また、実際に同じような行動をとるだけで、同じような感情や思考回路が形成されてくるので、クライアントの心情が理解できるようになってきます。
「共感」という言葉がよく使われますが、コーチはクライアントの考え方や感情に必ずしも共感しなくてはいけないわけではありません。
ゼロポジションで聴きながら、考え方や感情を理解することが目的です。そのため、共感しすぎてクライアントの感情に一緒に振り回されるというようなことは避けなければならないです。
ただしっかりよ同じ気持ちになっている、話をしっかり聞いていますという姿勢はみせていかないといけないので、このペーシング、ミラーリングが必要なテクニックなのです。
相槌:会話の相手に聞いてますよの合図
オウム返し:相手の言った言葉をそのまま繰り返す
クライアントでなくても、会話を黙って聴き続けることって多くの人は無理だと思います。「うんうん。」「それから?」「それはすごい!」「へ〜。」など簡単な言葉を添えながら、相手に話を聞いていることを知らせると思います。また、コーチはあえて相手の言っている言葉をそのままオウム返しして、感情を受け取ってますよというテクニックを使います。
クライアント「〇〇さんに昨日、怒られて、めっちゃ腹立った。」
コーチ「めっちゃ腹立ったんですね。」
クライアント「だって、私は何もしていないのに、急にみんなの前で怒るんですよ。」
コーチ「何もしてないのにですか」もしくは「みんなの前で怒ったんですか。」
というように、クライアントの一フレーズもしくは、部分的にありのままをリピートして感情を分かち合います。同じ言葉を繰り返しているようですが、これも、クライアント側からは共感してくれているように感じて、安心感や信頼感が増していきます。また、そのようにすることで、逆にクライアントが冷静になってきたり、物事を違う側面から捉えられるようになったりもするので、どのワード選出するかもコーチのテクニックになったりもしてきます。(その内容はまた別の機会に)
コーチ
このように聴くというテクニックには、話を聞いている時のコーチの思考(ゼロポジション)やどのような態度、仕草で聴くと相手に共感している、話をしっかり聞いてくれているというのが伝わるかについて、細かなテクニックとしてお話ししました。
すでに実際に行なっていると思う方いると思いますが、さらにこのテクニックを意識しながら、他者のフィードバックを求めて、トレーニングを積んでいくことをお勧めします。
僕はやっているつもりでも、時々「今、全然聞いていなかったですよね。」と後輩から注意されることがあり、ハッとします。自分のことは、自分が一番知っているようで、実は知らないということも多いのですので、一緒に練習の日々を過ごしていきましょう。(笑)
では、次回は承認するテクニック編をお話しします。